PIC32MM CPUシステム

令和元年 10月

   アナログ入出力

 3. DA変換回路の詳細検討

 具体的にDAコンバータの選定が出来たので、次はDA変換回路として詳細な検討を行います。
DA変換部の大半はDAコンバータに内蔵されているので、外部で接続が必要なのは電源とデジタル通信部およびアナログ出力部です。

 3.1 電源部

 電源部に関しては最初の段階でリニアレギュレータによる±15V電源の検討を済ませています。
この時点では実際に使用するDAコンバータの仕様が決まっていなかったので汎用的なデバイスを想定して検討をしていました。
ここでは実際に使用するDAC7760の特性を含めて必要な性能を満足するか検証します。DAC7760は12ビットの変換機です。出力レンジの最小値は5Vなので1ビットあたりの電圧は1.2mV程です。電源部からのノイズ影響は1ビット程度に収めたい。それ以外のノイズを加算しても2〜3ビットで収まる程度の再現性を目標とします。

 電源部で最も注意すべきは電源のノイズレベルです。使用するデバイスのPSRR(電源電圧変動除去比)に対して十分なノイズレベルに収まっているかを検証します。以下にDAC7760のPSRRを示します。AVCCと電流出力におけるPSRRです。AVSSにおけるデータが無いのは残念です。

                  図1(a) AVDDにおけるPSRR                              図1(b) 電流出力におけるPSRR
   図1はTi社DAC7760, DAC8760デバイスデータシートより引用

 ここで、もう一度使用する予定の電源回路のブロック図を示します。

 図2(c)で電源本体である電源部は内部で50〜100kHzの周波数でリップルを含む電圧を出力します。(使用予定の電源データシートはこちらを参照)
これを二つを積み上げていますので両者の位相のズレによってリップルの周波数が最大で二倍になることまでは想定しないといけません。とすると、50〜200kHz周辺でのPSRRが重要になります。
一方、図1からDAコンバータのPSRRは上記の周波数帯域では-10dB程まで低下します。ざっとノイズ量の30%程が直接影響することになります。やはり、何らかの方法でノイズ量を減らしておく必要があります。
 では、実際の電源電圧15Vにはどの程度のリップルが出てくるのか?つまり、電源部のリップル量およびレギュレータでの減衰率はいくらか?
電源部のリップル量はデータシートから最大で100mV、それが二つ重なっているので最大では200mVとなります。
レギュレータは一般的な78L, 79Lシリーズを使うとします。図3は78LシリーズのPSRRの一例です。正確には各社で特性が異なるでしょうが、大まかな傾向は参考になります.。図3はripple rejectionとなっていますがPSRRと同じ意味と理解しています。

      図3.78Lシリーズのripple rejection(ST社L78Lデバイスデータシートより引用)

 図3より、出力電圧が高くなるほどPSRRは低下傾向です。15V出力で100kHz時の値は35dBくらいになります。
この値なら何とか使えるとは思います。79Lシリーズでは各社のデータシートにPSRR特性の記載がありません。簡易回路図を見る限り78Lシリーズと特性上の差は小さいだろうとは思えるのですが不安要素にはなります。

 これらのデータを見て思うのは10kHzを超える周波数帯でのPSRRがそれ程良くないということです。
リニアレギュレータによるアナログ電源回路はどの教科書にも載っている定番の内容です。
しかし、この程度であればLCフィルタでも十分に置き換えられる。例えばLとして1mH, Cとして10uFのLCフィルタで100kHz時のノイズ減衰率はおよそ1/3500と60dBを超えます。むしろリニアレギュレータよりも良い特性です。やはり図2(b)の方法も検討の価値はありそうです。
 今回は実験的にリニアレギュレータとLCフィルタを排他的に実装できるように基板を作ってみます。欲を言えばリニアレギュレータの出力にLCフィルタを追加する方が良いのですが、さすがに今回の仕様にはオーバースペックでしょう。


 3.2 デジタル通信部およびアナログ出力部

 これらについてはDAC7660のデータシートに事細かく書かれています。注意点は以下になります。
  ・ グランドをしっかりと分離し適切に配線する。
  ・ デジタル信号とアナログ信号を出来る範囲で近づけない。
  ・ デジタル信号の高周波成分を可能な限り減らす。具体的にはSPI通信の通信速度を下げる、信号の立ち上がり・立下りを可能な限り鈍らせる。
  ・ アナログ部周辺の部品配置は最優先とし、他の検討事項によって優先度を下げない。

 3.3 実際の回路
 下記に今回のDAC回路の一部を示します。図4(a)電源部ではDAコンバータが必要な絶縁電圧+5V, +15V, -12Vを作ります。
当初の計画では-12Vは無く-15Vでしたが、これは-側の出力電圧は下限-10Vより少し低い程度で問題ないため、絶縁電源の出力-15Vをレギュレータで安定化できる値として-12Vとしました。上下の電源電圧値が異なるので違和感があるかもしれないですが、これで問題はありません。
逆に+側は従来どおり+15Vの電圧が必要です。+側電源では電流出力時に負荷抵抗600Ωに対して20mAの電流を供給できるだけの電圧が必要です。実際にはドライブ回路分の電圧が加算されるため少なくとも14V以上の電圧が必要になります。
 LCフィルタ回路を評価する時にはU14のレギュレータの出力側GNDをパターンカットしてGND2に接続します。これでレギュレータ無しでも+15V出力となります。次にレギュレータの78L15, 79L15を外して代わりにインダクタLを実装します。このときレギュレータ保護用のD11, D12も取り外します。

 図4(b)はDAコンバータのGND配線を示しています。絶縁されたグランド電位として電源部大元のGND2, アナログ用のAGND2, デジタル用のDGND2の3つがあります。これらは電源出力部付近で接続されています。
 図4(c)はDAコンバータのデジタル部とアナログ部を示しています。デジタルシソレータによる絶縁の後、デジタル信号の立ち上がり・立下りを抑えるために強めのダンピング抵抗を入れてあります。
アナログ回路部分はデバイスデータシートとほぼ同じ作りです。

             図4(a) 電源部                                           図4(b) DAC7760の電源部配線

                           図4(c) DAC7760のデジタルおよびアナログ回路部分


(令和元年11月18日追記)
 図4(c)の回路図には記入漏れがあります。DAC7760の-SENSE端子をAGND2に接続します。
また、GND2, AGND2, DGND2の3信号は基板上で接続されています。回路の機能上の違いを示すため別名で記述してあります。
(追記ここまで)

 実際の基板製作では他の基板と寸法を合わせるので、DA出力2CH/基板で製作します。
次は、基板が上がってくるまでの間にAD変換器の検討を行います。

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